エッセイ【風船犬】
夢を見た。
なんだか変な夢だった。
愛犬が、風船のように膨らんで、しまいには破裂してしまうという新型のウイルスに感染し、私はどんどん膨らんでいく愛犬を抱きしめて号泣していた。
このウイルスは人にも感染するようで、周囲の人間たちも風船のように膨らんで、やがて破裂して塵のようにパラパラと散った。
しかし不思議な事は私には感染の兆候が見られず、ただ愛犬にすがって泣くだけで、自分の身には何ら異常は起こらなかった。
夢であるからして、自分に都合よく出来ているのだろう。
愛犬がいよいよ風船のようにパンパンに膨らみ、そのまま空中へ浮かんでいってしまいそうになり、あまりの大きさに私も抱えきれず、手を放してしまい、嫌だあぁ!と叫んだところで目が覚めた。
人間というのは本当に不思議なもので、夢をきちんと夢だと理解している時と、現実の世界と混同してしまう時がある。
今回は、明らかに前者だった。だから私は「なんだ、夢か」とホッとするような事もなく「変な夢だったな」とボソッと呟いて、むくりと起き上がって部屋から出て階下へ降りていった。
そこにはいつもと変わらぬ日常が流れていた。
愛犬は、相変わらず尻尾をブンブン振って私に飛びついてきた。
決して太ってはいない。むしろスリムと言っても良いぐらいの体型のダックスフントで、短い尻尾が可愛い。
私は愛犬を撫でながら、両親に「なんか変な夢見たんだよね」と、例の夢について話して聞かせた。
「いやだ、怖い夢。気持ち悪い」
母は顔をしかめた。
「なんかそういう映画とかマンガとか見たりしたのか?」
父は怪訝な顔でそう聞いた。
言われてみれば、身体がパンパンに膨らんで破裂するウイルスもののマンガの広告をやたらと目にしていたし、前日の夜には「物の大きさが変わって見えたり、奥行きがおかしく感じたりする」という「不思議の国のアリス症候群」というものについてのテレビ番組を見ていた。
これがサブリミナル効果とかいうやつなんだろうか。
よく分からないが、人間の深層心理に働きかける何ものかの影響力に、私は軽く戦慄した。
何も言わずに考え込んだような顔をしていると、父が続けた。
「あれじゃないか?ほら、この前夏祭りに行った時にダックスの風船が売られててさ、それ見てお向かいさんちの太っちょダックスみたいだって話してたやつ」
ああ、確かにそんな事もあった。
我が家の向かいに暮らす老夫婦もダックスフントを飼っているのだが、この子がかなり太っていて、健康状態が気になっていたところだった。そして、縁日のダックスの風船を見かけて、まさに・・・!と思ったんだった。
いやはや、潜在意識というのは、不可解で興味深くもあり、また空恐ろしいものだ。
「あー、それかもね」
私は適当に父の言葉に返事をし、今日も元気にエサにパクついている我が愛犬の無事を密かに喜んだ。
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<筆者プロフィール>
emiglia
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